藤倉航装に救命胴衣について聞いてみた:救命装備品一筋70年以上(3/3 ページ)
どうして装着率が低いのか?
前述の海上保安庁の資料でも、釣り中の海中転落者の救命胴衣着用率は17.9%(2011年)と低いものとなっています。救命胴衣を着用していれば、約7割助かる、非着用者の1.6倍の救助率というのを聞くと「なんで着ないんだろう?」と思ってしまいます。しかし、実地で顧客に救命胴衣のことを説明する機会も多いという梅木氏が感じるのはやはり、日本人の危機感の薄さだそう。
小型船舶乗船者においても法の整備は進んできてはいますが、いまだ法的義務が生じない場合もあるという現状で、「一応何かあったときのために着用しておこう」と思うなら良いのですが、「今まで大丈夫だったから必要ないだろう」とか「自分には何も起こらないだろう」というなんら根拠のない結論を導き出してしまうことが多いのだそうです。
そういった場合、漁師さんであれば本人はそれで良いかもしれないが、万が一何かあって残された家族はどうするのかとか、仮に行方不明になった場合、操業停止で総出で捜索、どれだけ周囲に迷惑になるのかとか、1人の問題ではなく家族、さらには地域の問題にまでなってくるのだ、というところまで考えてもらっているそうです。暑い季節は終わっても、年中無休で釣りに行くという太公望もいるでしょう。まだライフジャケットをお持ちでなければ、購入を検討してみてはいかがでしょうか。
実はアナタも目にしている藤倉航装製品
このように藤倉航装の救命胴衣は漁業、港湾関係者からマリンレジャー、自衛隊をはじめ、警察や消防などで幅広く使われているわけですが、実は救命胴衣以外にも、我々が日頃、ニュース映像などで気が付かないうちに目にしている藤倉装航製品があります。そのひとつが、災害などで救助に出動したヘリコプターが空中でホバリング(静止)して、避難した人を吊り上げて救助するというシーン。そのとき要救助者を吊り下げている「サーバイバースリング」も藤倉航装製品です。また、薬品などで汚染の恐れがある現場でレスキュー隊員などが着用している「化学防護服」も同社製品のものが多いそうです(使い捨ての製品は製造していないため、放射能物質の簡易防護服は他社製とのこと)。我々が見てもすべて同じにように見える装備でも、関係者の目から見ると形状などからちゃんと自社製品だと分かるというのがさすがです。
また、意外なところでは自衛隊の戦闘機パイロットが着用する「耐Gスーツ」も同社製です。耐Gスーツとは高重力下で血液が下半身に集まることで脳に血液が流れなくなり失神するのを防ぐためのもの。腹部から足全体を圧迫して血液が脳まで届くようにするという仕掛けですが、その圧迫する際に使われているのが救命胴衣の気室のようなものなので応用が利く製品なのだそうです。
ニュース映像に頻繁に映るものではありませんが、国内で使用されているパラシュートも同社製が多いそうです。一般的には救命胴衣のほうが身近な製品だと思われますが、実は英語社名が「Fujikura Parachute」というのが示すように、そもそもパラシュートを製造するところから始まった藤倉航装。パラシュート投下試験実施用の社有機も保有しており、人員降下用のパラシュートだけでなく、10トンもの物資を投下可能な物資投下用、航空機の制動距離を短くする制動用のドラッグシュートや艦船のシーアンカー(傘体型のいかり)など関連製品は多様。ちなみに、2010年6月に地球に帰還した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルが地上に降りる際に使用したパラシュートも藤倉航装製です。これはJAXAの世界最高高度記録を持つBU60-1気球(リンク先はPDF)プロジェクトに参加、気球を製造したことが縁になったそう。「はやぶさ」は計画時、4年間で帰還する予定だったものが最終的には7年間、60億キロの宇宙航行における超真空、極低温の環境にさらされた後での帰還となりました。藤倉航装としても不安がなかったかといえば嘘になるそうで、カプセルの地球帰還成功の際には喜びもひとしおだったそうです。
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