奇才か、それとも―― 飯野賢治さんの作品をあらためて振り返る:日々是遊戯
体を張って90年代のゲーム業界をリードした、偉大なクリエイターでした。
「Dの食卓」などで知られる、ゲームクリエイターの飯野賢治さんが2月20日、42歳の若さでこの世を去りました。ネットではこれを受け、多くの著名人が追悼のメッセージを投稿。あらためて飯野さんという人物の存在の大きさを実感させられました。
飯野さんは代表作「Dの食卓」で一躍有名になり、その後も「エネミー・ゼロ」「リアルサウンド 〜風のリグレット〜」と次々と話題作を開発。1999年の「Dの食卓2」を最後に家庭用ゲーム開発からは遠ざかっていましたが、ここ数年はiPhoneアプリや、Wiiウェア「きみとぼくと立体」などでふたたび飯野さんの名前を目にするようになっていました。
いずれもクセの強い作風でユーザーの評価は分かれましたが、当時進化のまっただ中にあったゲーム業界にとって、常に一歩先を行こうとする飯野さんの作品は、ゲームの未来を明るく照らすサーチライトのような存在でした。残念ながらほとんどの作品が現在のハードでは遊べない状態ですが、ここでは追悼の意を込め、飯野さんの作品をまとめて振り返ります。
Dの食卓(1995年/3DO、プレイステーション、セガサターン)
主人公ローラ・ハリスとなって3Dの館を探索するアドベンチャーゲームで、“飯野賢治”の名を世に知らしめた代表作。当時まだ珍しかった3DCGをいち早く採用したことや、映画のような演出やストーリーテリングに当時は驚かされました。
セーブ・ロードができず、なおかつ2時間以内にクリアできないとバッドエンドになってしまうという「遊ばせ方」も印象的でした。現在遊ぶには中古などを利用するしかなく、ゲームアーカイブスで復刻してほしい作品の1つです。
エネミー・ゼロ(1996年/セガサターン)
宇宙船という閉鎖空間の中で、姿の見えない敵(エネミー)と戦うアクションアドベンチャーゲーム。視覚ではなく“音”で敵の位置を察知するシステムが特徴ですが、あまりにも怖すぎた/難しすぎたため筆者は当時クリアできませんでした。
当初はプレイステーションで発売される予定でしたが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)とモメた挙げ句、セガサターンへとハード変更。その発表をSCE主催の「プレイステーションエキスポ」内で行ったというエピソードはあまりにも有名です。
これも現在は中古で遊ぶしかなく、しかもハードがセガサターンのみ……。
リアルサウンド 〜風のリグレット〜(1997年/セガサターン、ドリームキャスト)
ゲーム画面がなく、ラジオドラマのような形式でストーリーが展開していく「インタラクティブサウンドドラマ」。続編も発表されておりシリーズ化される予定でしたが、結局1作目の「風のリグレット」しか発売されませんでした。
のちにドリームキャストにも移植されましたが、ドリームキャスト版ではシーンに合わせた一枚絵が表示されるようになってしまったのがちょっと残念でした。これも今のところ復刻・配信などは行われていません。
なお飯野さんの訃報を受け、脚本を担当した坂元裕二さんが「風のリグレット」の脚本を無料公開しています。
Dの食卓2(1999年/ドリームキャスト)
タイトルは「Dの食卓」ですが、主人公が同じローラというだけでゲーム内容はまったくの別もの。今回は雪山が舞台で、銃による戦いが加わりアクションシューティング寄りの内容になっています。体力回復の方法が「ウサギなどの野生動物を仕留めて食べる」という点が印象的でした。
一見よくあるサバイバルホラーに見えますが、メッセージ性の強いストーリー、特に終盤の展開は一見の価値があります。
これも今のところ復刻・配信は行われていません。
きみとぼくと立体(2009年/Wiiウェア)
「Dの食卓2」以降家庭用ゲーム開発から遠ざかっていた飯野さんですが、2009年にブログで突然「GET BACK」を宣言。しばらくしてリリースされたのが本作でした。
ぐらぐらと揺れる不安定なキューブの上に、「ニンゲ」と呼ばれる生き物たちを乗せていくゲームで、オモチャなどでよくある「バランスゲーム」のデジタル版といった感じ。これまでの飯野さん作品とは違ったポップさがあり、10年間の変化がなんとなくうかがえます。現行の家庭用ハードで遊べる唯一の飯野さん作品なので、Wiiを持っている人はぜひ遊んでみてください。
ここでは省略しますが、ほかにも「moon」の西健一さんと組んで開発した「newtonica」(2008年)や、飯野賢治の名前を伏せてリリースしたにもかかわらず10万ダウンロードを達成した「one-dot enemies」(2009年)などのiPhoneアプリ(のちにTwitterで告白)をリリースしています。
最近はiPhoneアプリに軸足を置いていたとは言え、あらためて振り返ってみると、現行ハードで遊べる作品の少なさに衝撃を受けました。好き嫌いはあれど、いずれも90年代のゲームを語るにあたって欠かせない作品群。ぜひゲームアーカイブスなどでの復刻を切に願います。
飯野さんを称して「奇才」「異端児」などとしばしば言われますが、パフォーマンス的な発言はさておき、飯野さんが作ろうとしていたものこそ、ゲームの正常進化だったのではと今では思っています。ゲームが昔の殻を破り、次のステージへ進もうとしていた90年代。そんな中、誰よりも強く殻を叩き続け、誰よりも早く外の世界へ飛び出そうとした偉大なクリエイターでした。飯野賢治さんのご冥福を心よりお祈りします。
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