第22回:なぜ、最後のボスは正体をなかなか現さないのか?:なぜ、人はゲームにハマルるのか?(2/2 ページ)
クライマックスシーンの存在自体を隠すのも古くからよくある風景
ニセモノのボスどころか、ボス敵の居場所や名前、あるいはその存在すらもクライマックスの場面を迎えるまで一切合切隠してしまうゲームも数多く存在します。
有名RPGから例を挙げると、スクウェア・エニックスの「FF」こと「ファイナルファンタジー」シリーズがこの方式をよく取り入れています。スタート地点の城にいる王様が、「大魔王を倒して平和を取り戻せ!」などと最終目標を語るのではなく、「まずは町に行きなさい。」(「FFII」)とか、「炎の洞窟へいっしょに行くわよ。」(「FFVIII」)などというように旅のヒントや短時間で終わるミッションだけが示され、強大なボス敵の存在や正体は物語を最後まで進めるまでまったくわかりません。
次に対戦格闘ゲームでの例を見てしましょう。ブームの火付け役となったカプコンの「ストリートファイターII」はゲーム開始時に8人の格闘家が登場しますが、プレイヤーが選んだ以外の相手を7人全員倒したら終わりかと思いきや、直後にM.バイソン、バルログ、サガットという3人の強敵が突如出現してプレイヤーを驚かせてくれます。そして、これらの3人を倒すと悪の総統ベガの存在がついに明らかになり、ベガを倒せば晴れてエンディングに到達するという仕組みになっていました。
※PS2版「カプコン クラシックス コレクション」を使用
(C)CAOCOM CO., LTD. 2005,2006,
(C)CAPCOM U.S.A., INC. 2005,2006 ALL RIGHTS RESERVED.
ボスにあたる存在のキャラクターはいないものの、KONAMIが1985年(またも1985年!)に発売した「イーアルカンフー」にも面白い演出があります。本作の場合は、ゲーム開始時に1〜3面までの対戦相手だけが表示され、4面以降の敵はそのステージへ実際に到達するまで正体を一切現しません。
また、敵の登場シーンは最初は5人目までしか表示されませんが、5面をクリアすると画面が切り替わって6面以降のステージが実は存在することも明らかになります。本作は全部で11人の敵が登場しますから、プレイヤーが事実上のクライマックスとなる11ステージの存在を知るためには、最低でも6面まで到達しなければいけない計算になります。
※PS版「コナミ80'sアーケードギャラリー」を使用
(C)1998 1999 KONAMI ALL RIGHTS RESERVED.
「FF」シリーズのように、主にクリアまで長時間かかるRPGの場合は行く先々で次々に課されるミッションをこなしていくうちに、やがて主人公たちが打倒すべきボスの存在などが判明するような構成になっています。だからこそ、プレイヤーはたとえ最終目標がわからなくても、直近のミッションに専念することでのでゲームのモチベーションを失わずに夢中になって遊び続けられるのです。
対戦格闘ゲームの場合でも、「姫を助け出せ!」などのわかりやすいストーリーが存在しなくても、隠されてた敵の存在を徐々に明らかにすることで「次の相手はどんな奴なんだろう? 続きが見たい!」と、プレイヤーの好奇心が大いにくすぐられることになり、その結果ますますゲームにハマってしまうというワケです。「イーアルカンフー」のプレイ動画(だいぶ端折っていますが)をご覧になれば明らかなように人間たるもの、隠されたものはどうしてもその正体を知りたくなるのが心情ですよね?
プレイヤーを驚愕させる必殺の呪文“クライマックスシーン書き換えの術”
主にRPGなどのジャンルにおいては、ゲームのバックボーンとなるきめ細かなストーリーがマニュアルに書かれていたり、スタート直後に王様から冒険の最終目標が説明されるシーンを用意するのが定番中の定番パターンです。ところが、いざゲームを進めるとマニュアルにも王様の頭の中にも一切書かれていない、真のクライマックスの場面が突如明らかになるという裏のストーリーを用意してプレイヤーをあっと驚かせる例も見られます。
代表例としては、1988年にエニックス(現:スクウェア・エニックス)が発売した「ドラゴンクエストIII」があります。本作は、ゲーム開始直後に「大魔王バラモスを倒せ!」と王様から冒険の最終目標が説明されますが、実はバラモスを倒しても即エンディングとはならず、その後も新たなストーリーが展開します(※ネタバレ防止のため、詳しい説明は省きます!)。本作を実際に遊んだことのある人であれば、予想だにしないまさかの展開が待っていたことには大きな衝撃を受けたことでしょう。
「ドラクエIII」のように、ゲームの世界では終盤になるとで突然新たな最終目標が出現するという名付けて“クライマックスシーン書き換えの術”を使うことで、プレイヤーはさらなる感動と挑戦意欲がわいてますますその魅力に引き込まれてしまう効果が生じます。
1997年にKONAMIが発売した、プレイステーション用アクションRPG「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」にも面白い演出があります。本作ではドラキュラ城の最上部にいるリヒターを倒せばエンディング画面を見ることができますが、実は数多くの隠された謎を解明した状態でリヒター戦を迎えると新たに別の城を出現させることが可能となります。この隠された城は「逆さ城」と呼ばれ、なんとマップ構成が最初の城と上下逆さまになっているという文字通り大どんでん返しの演出です。そして「逆さ城」の謎を解き明かし、最深部へと進んだところに真のクライマックスの場面となる対ボス戦が現れる仕組みとなっているのです。
プレイヤーの意表を突き、なおかつストーリーにさらなる奥深さをもたらすこのアイデア。まさに1粒で2度オイシイ(古い!)、何だかソフト1本の値段で2本分のゲームを遊んでいるかのように得をした気分になりますよね。
(C)1997 KONAMI ALL RIGHTS RESERVED.
ここでもうひとつ、あまり知られていないタイトルからも秀逸な例(筆者の単なる趣味という説も……)をご紹介しましょう。
1986年にテクモ(現:コーエーテクモゲームス)が発売したファミコン用ソフトの「スーパースターフォース 時空暦の秘密」においても、プレイヤーの驚きと感動を与える“クライマックスシーン書き換えの術”が見事に使われています。本作は全7ステージの迷宮(地上ステージ)内に隠された秘密のアイテムを発見し、最終ステージのボスであるゴーデスを倒すことが目標ですが、実はゴーデスを倒すと「しかし、謎は残されたままだ……。」というメッセージとともに、強敵ばかりが出現する真の最終ステージへと飛び立つサプライズが用意されていました。
さらに最終ステージでは、クリアの方法によって2種類のエンディングに分かれるという実に凝ったストーリーでゲームを締めくくっています。筆者が初めて“クライマックスシーン書き換えの術”の呪文を浴びたゲームが実は本作なのですが、真の最終ステージを最初に目撃したときの驚きと感動は今なお忘れることができません。
(C)1986 TECMO LTD.
以上、今回のクライマックスの演出に関するお話はいかがでしたでしょうか? 現在では、オンライン対応ゲームの場合はアップデートを実施することによってボス敵やクライマックスのシーンをどんどん後付けで展開させることができますが、アーケード用の基板や家庭用のパッケージソフトでは当然そうはいきません。しかし、クライマックスの場面を小出しにしたり隠したりするなどあの手この手でプレイヤーを驚かせ、なおかつ限られたプログラム容量の中でいかにボリューム感を出すかというノウハウは一種の発明であり、同時にゲーム独特の文化であるとも言えるのではないかと筆者は思います。
ゲーム開発者のみなさんにおかれましては、今後も我々プレイヤーに新鮮な驚きと感動を与えるよう、巧みにジラしたりダマしたりする演出の技術をなおいっそう磨かれることを期待してやみません(笑)。
それでは、また次回!
今回登場したソフトはココで遊べます!
- 「スーパーマリオブラザーズ」:Wiiバーチャルコンソールほか
- 「魔界村」:PS2用ソフト「カプコン クラシックス コレクション」、Wiiバーチャルコンソール
- 「ファイナルファンタジーII」:PSP用ソフト、GBA用ソフト「ファイナルファンタジー I・II アドバンス」ほか
- 「ストリートファイターII」:PS2用ソフト「カプコン クラシックス コレクション」、PS用ソフト「カプコンジェネレーション・第5集〜格闘家たち〜」ほか
- 「イーアルカンフー」:ニンテンドーDS用ソフト「コナミ アーケード コレクション」、PS用ソフト「コナミ80's アーケードギャラリー」ほか
- 「ドラゴンクエストIII」:Wii用ソフト「ドラゴンクエスト25周年記念 ファミコン&スーパーファミコン ドラゴンクエストI・II・III」ほか
- 「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」:PS用ソフト、PSP用ソフト「悪魔城ドラキュラ Xクロニクル ベストセレクション」
著者プロフィール
鴫原 盛之 Morihiro Shigihara
1993年よりゲーム雑誌および攻略本などでライター活動を開始。その後、某メーカーでのグッズ・店舗開発や携帯コンテンツの営業、ゲームセンター店長などの職を経て、2004年よりフリーに。現在は各種雑誌やWebサイトでの執筆をはじめ、某アーケードゲームの開発なども手掛ける。著書は「ファミダス ファミコン裏技編」(マイクロマガジン社)、「ゲーム職人第1集 だから日本のゲームは面白い」(同)の他、共著によるゲーム攻略本・関連書籍を多数執筆。近刊は共著「デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド」(ソフトバンククリエイティブ)がある。
Twitterは「@m_shigihara」です。
著者近況
久々に書籍の仕事などが入った関係で、昨年末から正月返上で毎日超絶大忙し! 朝起きたら取材に出かけてゲームをやり込み、帰りは仕事も兼ねてゲーセンに入りびたり、帰宅後はレビューや紹介記事の執筆用にゲームをやり込み、そして仕事の息抜きに好きなゲームを遊ぶという、もはや完全無欠の挙動不審者状態です(苦笑)。そろそろまとまった休日が欲しいところですねえ……。
書籍の詳細はまだ明かせないのですが、もしかしたら当コラムの読者のみなさんにはオドロキのニュースになるかも!? 続報を待て!!
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