「愚直」な取り組みが生んだ、セイコーが世界に誇るプロダクト「グランドセイコー」(1/3 ページ)

「愚直」という言葉がよい意味で使われることはあまりありません。しかし、「グランドセイコー」は「愚直」に取り組んだからこそなし得た、そんなプロダクトでした。

» 2013年02月26日 12時24分 公開
[種子島健吉,ITmedia]
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セイコーが世界に誇るプロダクト

 今回は、誰にも馴染み深いガジェットである腕時計を取り上げます。それもデジタルではなく、アナログの腕時計、セイコーウオッチの「グランドセイコー」です。

 それでは一見ただのアナログ腕時計なのに、「世界に誇るプロダクト」であるという「グランドセイコー」の、どういう部分が世界に誇ることができるのか、セイコーウオッチの土屋雄嗣氏にうかがっていきましょう。

画像 お話をうかがった、セイコーウオッチ 第三企画部 課長 土屋雄嗣(つちや ゆうじ)氏。「グランドセイコー」など、腕時計の企画開発担当歴10年以上のプロフェッショナルである

―― まずは「世界に誇るプロダクト」であるとおっしゃる「グランドセイコー」がどのような経緯で誕生したのか、セイコーの歴史も踏まえて教えてください。

土屋氏 セイコーウオッチは1881年に「服部時計店」として創業し、輸入時計の販売や中古時計の修繕などを行っていました。その後、1892年からは掛時計、1895年から懐中時計、そして1913年から腕時計と100年以上にわたって時計を作り続けています。

 創業から現在にいたるまで、「できるだけ多くの人に正確な時計を届ける」という基本方針はブレずに変わっていません。それを体現しているのが「グランドセイコー」だといえます。

―― なるほど、こちらでも、セイコー腕時計100周年記念モデルを紹介していますが、それだけ長きにわたって、いろいろなことはあったけれども、基本方針は変わらずに、一本軸がしっかり通っていたということですね。

土屋氏 1913年発売の「ローレル」は、国産初の腕時計でしたが、まだ輸入時計のムーブメントを参考にして設計した部分もありました。自社で初めていちから設計開発したのが、1956年に発売した「マーベル」になります。

 「マーベル」でも品質向上ははかられていましたが、それをさらに高精度化し、耐震機能も付与したのが1959年発売の「クラウン」で、その「クラウン」に搭載していたムーブメントをベースとしてできたのが、セイコーが目指す最高の腕時計を具現化した、初代「グランドセイコー」なのです。

 当時は「スイス製」というのが「高級腕時計」の代名詞でしたから、「スイスの高級腕時計に挑戦する国産最高級腕時計」というのが、「グランドセイコー」の開発コンセプトでした。

画像 1913年発売、この「ローレル」が初の国産腕時計である

画像 1960年発売の初代「グランドセイコー」。当時のスイス・クロノメーター優秀規格と同じ社内検定が行われ、検定に合格したムーブメントだけが搭載された

―― 「グランドセイコー」はセイコーウオッチには欠かすことはできない、大切なラインアップとして脈々と受け継がれて来たわけですね。

土屋氏 いや、それが「グランドセイコー」は1970年代半ばに一旦生産中止になっているのです。これは製品の人気が衰えたということではなく、クオーツ式時計が開発、販売されたというのが要因でした。

 クオーツ腕時計というのは、セイコーが世界で最初に市販したものなのですが、それまで機械式腕時計を製造していたメーカーが廃業してしまうほど革新的な製品で、当時、クオーツショックといわれました。そのとき「グランドセイコー」のラインアップも機械式のみで、影響を受けずにはいられなかったのです。

画像 1969年発売の「クオーツ アストロン」。世界初のクオーツ腕時計であり、このクオーツ革命以降、急激にクオーツ時計が世界中に広まることになる

「できるだけ多くの人に正確な時計を届ける」

―― みずから生み出した製品による大成功が、みずからの首までしめてしまうとは、なんとも皮肉ですね。でも、現在、「グランドセイコー」に機械式腕時計のラインアップも存在するということは、どこかで復活したことになりますか?

土屋氏 そうです。1988年にクオーツを搭載して「グランドセイコー」が復活、1998年には機械式も復活しました。当時は、1980年代なかばの世界的な時計ブームを背景として、機械式時計のよさが改めて見直されていた時期であったことと、社内に機械式時計の技能や技術を知るメンバーが残っていたため、これらの技能や技術を後世に守り継ぐべきとして、機械式時計を復活させたのです。

セイコー製品を支える「マニュファクチュール」

―― 「グランドセイコー」のラインアップについてうかがいます。クオーツというのは水晶が電圧をかけたときに一定の周期で振動する性質を利用したもの、機械式というのはゼンマイの力によるものというのは分かるのですが、スプリングドライブというのはどういったものなのでしょうか?

土屋氏 スプリングドライブは、機械式時計と同じようにゼンマイのほどける力を動力源としたムーブメントです。どこが機械式と違うのかというと、電池も充電池も使わずに、ICと水晶振動子によって精度をコントロールすることで、クオーツ時計と同等の高精度を実現しているというところです。このハイブリットムーブメントは、世界で唯一のセイコー独自技術です。

 そのため、スプリングドライブは、機械式時計よりも高精度で温度変化や衝撃にも強く、あらゆる環境下で高い信頼性を備えることに成功しています。お客様の使用環境によって精度が影響を受ける、機械式時計の弱点を解決したものなのです。

画像 2004年に発売した「グランドセイコー スプリングドライブ」。ゼンマイのほどける力を動力源としながら、クオーツの正確さも兼ね備えている

画像 「グランドセイコー スプリングドライブ クロノグラフ ピンクゴールドモデル」の内部機構。部品点数は、416個におよぶ

―― 「できるだけ多くの人に正確な時計を届ける」という基本方針を貫いているというのは分かりました。しかし、それだけで「グランドセイコー」のようなプロダクトを生み出したり、スプリングドライブという新技術を開発したりできるのでしょうか? セイコーウオッチ独自の強みがありそうですが。

土屋氏 ムーブメントを自社で設計、開発、製造を行う体制を整えているブランドのことを「マニュファクチュール」といいますが、セイコーは世界でも数少ない「マニュファクチュール」ブランドのひとつなのです。

 自動車や家電でもそうですが、近年、パーツをいろいろなところから買い集めてきて、ひとつの製品として組み上げるということが多いと思います。しかし、セイコーウオッチでは、自社で主要パーツを設計、開発、製造しています。そうすることで、ひとつひとつのパーツを素材そのものから開発したり、厳密な精度で仕上げることが可能なのです。

 新製品開発の都度、パーツひとつひとつを再確認し、そのとき最適な素材と先端技術を使ってさらに精度を高める。特別なことではなく、それをとにかく繰り返す。当たり前すぎるし、愚直な行為かもしれません。でも、それを100年間たゆまず継続してきた成果のひとつが「グランドセイコー」だといえます。

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