ここから先は通さない! プレイヤーの命を守る“愛の通せんぼ”

当たり前だと思っていませんか? そこには開発者の見えざる手が行き先を指しているんですよ。

» 2012年07月18日 16時20分 公開
[鴫原盛之,ITmedia]

 ロールプレイングゲーム(RPG)の一番の醍醐味は、何といっても未知の世界を尋ねてまわる冒険ができるところにあるでしょう。しかし、古来から多くのRPGでは物語の序盤は行動範囲をわざと狭め、プレイヤーを通せんぼしてしまう場合が度々あります。

 せっかく用意した広大な冒険の舞台を、まるで出し惜しみをするかのように通せんぼをする理由はただひとつ。それはゲームをまだ始めたばかりのプレイヤーに対して、基本となる操作方法やルールを理解してもらうための配慮からなのです。

 その最たる例が、以前の連載コラム第1回でも取り上げた「ドラゴンクエスト」のシリーズ第1作目にあります。本作ではゲーム開始直後に王室からすぐ外へ出ることができず、階段を下りて地上に出るためにはすぐ近くにある宝箱を取ってカギのアイテムを発見して扉を開き、さらに階段のところで下へ降りるためのコマンドを実行することが必要になっています。つまり、ゲームを進めるうえで基本となるコマンド入力の仕組みをプレイヤーが自然と学べるようにするため、わざと行動範囲を制限しているのです。

画像画像

画像画像 「ドラゴンクエスト」では、ゲーム開始直後に宝箱を「とる」コマンドで取る方法、および「とびら」コマンドでカギを使用して開く方法を自然と学べるようになっていました

(C)1986 ENIX

 もしも通せんぼされることが一切なく、最初からどこにでも行けるようになっていたとしたらはたしてどうなるでしょうか? 初代「ドラクエ」が発売された1986年当時は、まだRPGという存在がゲーム好きの間でもあまり認知されていなかった時代ですから、プレイヤーによっては自分が何をしたらいいのか理解できないうちにモンスターに遭遇して、あっという間にやられてしまうかもしれません。そんなプレイヤーの混乱を未然に防ぐための画期的なアイデアこそが、まさに“愛の通せんぼ”システムなのです。

 このアイデアは効果テキメンだったようで、以後の続編タイトルにも度々登場します。過去の「ドラクエ」シリーズを経験したプレイヤーにはもはや説明不要のお約束であっても、初心者に対する配慮を欠かさなかったのは地味ながらも素晴らしいことではないかと思いますが、みなさんはどう思われますか?

 また、「ドラクエ」から約1年後に発売された「ファイナルファンタジー」でも、序盤はスタート地点のお城から遠く離れた場所へ行けないようにする“愛の通せんぼ”システムが導入されています。本作では、「敵のガーランドにさらわれた王女を助けてくれ。」という依頼を王様から初めに受けますが、このミッションをクリアするまでは王様が川に橋をかけてくれないため先へ進むことができません。まるで「本格的な冒険に出る前にまずは基本を身に着けなさい!」という開発者からの声が今にも聞こえてきそうな設定です。

 当時はまだスクウェアとエニックスは別会社でしたが、同じような通せんぼのアイデアを取り入れていたのはとても面白い事実ですよね!

画像画像

画像画像 「FF」シリーズの第1作目では、川に橋を掛けないことで行動範囲を制限する”通せんぼ”システムを使用していました

(C)1987 SQUARE

 “愛の通せんぼ”システムは、「ドラクエ」や「FF」シリーズのようなコマンド入力方式のRPGだけでなく、アクションRPGの「ゼルダの伝説」シリーズなどでも見ることができます。

 例えばニンテンドー64用ソフト「ゼルダの伝説 時のオカリナ」では、ゲームの冒頭で主人公のリンクがパートナーの妖精ナビィから森の守護神デクのところに来てほしいという依頼を受けます。しかし、デクの居場所へ行く途中にはリンクの友人であるミドが「剣と盾を持っていないやつは通さない!」と両手を広げてリンクの行く手を遮ります。ここでもやはり、冒険を完遂するためには剣と盾が絶対に必要なことと、これらのアイテムを取るまでの間に基本となる操作方法やルールを学んでほしいという開発者からのメッセージをストーリーの中に巧みに盛り込んでいるというワケです。

 それにしても、この場面は道がかなり広いのでミドのいない方向にダッシュや前転などを使って勢いよく飛び込めば通れそうにも見えますが、何回フェイントをかけてもまったく引っ掛かってくれません(笑)。しかし、剣と盾を無事発見してから再び話しかけるとミドはしぶしぶ道をあけ、本格的な冒険の旅がいよいよ始まることになります。本作をご存じない方は、ぜひ以下のプレイ動画で剣と盾を持っている時とそうでない時の様子を見比べてみて下さい。また、本作ではシナリオをかなり進めた後にも通せんぼをされる場面が登場しますが、冒頭のシーンを思い出せば「あ、何か謎を解かなければ先へ進めないようになっているんだな!」と瞬時に理解することできますね。

 そう言えば昨今のソーシャルゲームでは、主にゲーム開始直後のチュートリアルの場面でプレイヤーが使用できないメニューやコマンドの表示色を変えて選択できないようにしたり、あるいは特定のレベルに達するまではメニュー自体を発生させないケースを目にします。あるいは、ナビゲーター役のお姉さんが現れてプレイヤーが行動を誤らないよう、「今はまだ選べません!」などと手取り足取りプレイヤーにレクチャーする場面もしばしば見られます。もしかしたら、このようなアイデアの源流は“愛の通せんぼ”のシステムに由来しているのかもしれませんね。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/15/news017.jpg “世界一美しいザリガニ”を入手→開封して見ると…… 絶句を避けられない姿と異変に「びっくり」「草間彌生作のザリガニみたい」
  2. /nl/articles/2405/16/news184.jpg どういう意味……? 高橋一生&飯豊まりえの結婚発表文、“まさかのタイトル”に「ジワる」「笑ってしまう」
  3. /nl/articles/2405/15/news047.jpg 耐火金庫に“溶岩”を垂らしてみたら…… “衝撃の結果”に実験者も思わず「なんだって!!!」と驚愕【海外】
  4. /nl/articles/2405/14/news131.jpg 「泣きそうになった」 くせ毛に悩む中学生が“垢抜けイメチェン” 美容師のスゴ腕に「ここまでできるなんて」
  5. /nl/articles/2405/15/news106.jpg 「二度と酒飲まん」 酔った勢いで通販で購入 → 後日届いた“予想外”の商品に「これ売ってるんだwww」
  6. /nl/articles/2405/16/news021.jpg GW10日間、毎日人間の相手をして疲れ果てたワンコの表情に「爆笑」「まじで愛おしいww」 最終日の異変に4万いいね「蛭子さんみたい」
  7. /nl/articles/2405/15/news133.jpg 複数逮捕&服役の小向美奈子、“クスリ”に手を出した理由が壮絶すぎ……交際相手の暴力で逃亡も命の危機 「バレてバルコニー伝って入られて」
  8. /nl/articles/2405/15/news173.jpg 人の心ないんか……? ピーターラビットの「悲しすぎるガチャ」に反響続々 お父さんの“まさかの姿”がショッキング
  9. /nl/articles/2405/16/news012.jpg 生後3カ月の赤ちゃん、ママの全力「いないいないばぁっ!」に…… 予想外の反応に→ママ「もう謝るしかないです(泣笑)」
  10. /nl/articles/2405/14/news037.jpg こ、これは……! 電子レンジで加熱した豆腐にネット民衝撃 「知らなかった」「えらいこっちゃ」と動揺走る
先週の総合アクセスTOP10
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評